「足久保に生まれた誇りはずっとあります。」 〜足久保ティーワークス 後編〜
- 「今度は、高いところにある茶畑に行ってみましょうか」。そう言って案内してくれたのは足久保ティーワークス 代表理事の吉本邦弘さん。15分程度山道を登り、絶景を見ながら伺った話とは?
目 次
仲間で競い合って伸びてきた、伝統の足久保茶
すごい急斜面ですね!
代表理事 組合長 吉本邦弘さん(以下「吉本」)
静岡の山は尖っていますから(笑)。中でも足久保の山はなかなかでしょう。そりゃ、乗用(摘採機)なんて入らないですよ。でも、とても眺めが良いので、ここにテラスを作ったんです。ここでお茶が飲みたかったら、下のカフェで声を掛けてください(※予約制)。
眺めが良くて素敵な場所です。足久保育ちの吉本さん、地元に誇りはありますか?
吉本
もちろんです。だって、静岡茶発祥の地ですよ。足久保茶は江戸時代から「将軍家御用達のお茶」、つまり高級茶として知られていました。足久保に生まれたことはずっと誇りですし、小学校の卒業文集には「将来の夢は茶農家」と書きました。私は負けん気が強くて足久保の中でも一番になりたかったから、山のてっぺんの茶畑に早生の「おおいわせ」を植えて、足久保の中で一番早く、茶の新芽が摘めるように頑張りました。
足久保の皆さんで競い合ってきたのですか?
吉本
そうです。昔からそうやってみんなで切磋琢磨して、おいしいお茶を作ってきたんです。
その皆さんが集まって「足久保ティーワークス」ができたのですね?
吉本
はい。最初は農家だけの集団で、仕上げも浅蒸し専門でした。
山のお茶で作る浅蒸しと深蒸し
製茶工場にもこだわりがあるとか?
吉本
そうですね、まず、うちは混ぜ揉みをしないのです。混ぜ揉みとは、いろいろな茶畑のお茶を混ぜて製茶することです。私たちは元々、自園農家の集まりだから、「うちのお茶とよそのお茶」を区別する意識があります。今でも混ぜないで、同一茶園のお茶だけで製茶します。こだわりといえば、機械にもこだわっているかな。製茶機械メーカーには得意分野があるから、たとえば揉捻(じゅうねん)機と精揉(せいじゅう)機は違うメーカーです。製茶の工程は、要はいろいろな機械を通して、生葉の水分を乾燥させていくのですが、大切なのはお茶の「しとり」。「しとり」とは、生葉の芯の水分量と、表面の水分量が同量であることです。表面だけが乾いて芯に水が残るとよろしくないので、重しをかけた揉捻機で、芯の水をじっくりと外に出していきます。最後にお茶が縒るところを作る、仕上げの精揉機は60キロで小型です。メーカーは倍のサイズの120キロでも、仕上がるお茶の形状は変わらないと言いますが、私は60キロの方が、断然細くて綺麗な仕上がりだと思っています。浅蒸しの山のお茶は、やっぱり細く縒れた美しい形にしたいんですよね。とはいえ、山のお茶で作った深蒸し茶も抜群にうまいんです。硬葉(こわば)は大きな機械でグイグイ揉むほうが深蒸しっぽくなっておいしいので、120キロの精揉機も入れました。
- 深蒸し茶 蒸王
深蒸は蒸しが強く、強く入っていることから、浅蒸しよりも、焦しキャラメルような濃厚な香りを感じます。抜群の旨味と力強い山々の渋みを兼ね備えたオーケストラのような重奏に圧倒されます。
・品種:やぶきた
・クラフト:深蒸し
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:煎茶
商品はこちら
こだわりは持ちつつも、新しいことに挑戦を
先ほど、石川さんに浅蒸し茶を入れていただきました。
吉本
おいしかったでしょう?私が好きなのは、ふわ〜っと香りが広がる、こういった昔ながらの山のお茶です。だから正直、フレーバーティーなどはどうなんだろう?と以前は思っていたんですが、きちんと信念を持ち丁寧に作れば良いものができあがるんだな、と今は考えを改めました。「はじまりの<和紅茶>」シリーズもとてもおいしいですし、今は消費者の要望に応えていきたい気持ちがあります。このカフェも、生葉がどんどん工場に運び込まれていた昔の稼働状況だったら、なかなか運営できなかったと思います。元々はトラックを止めるスペースですから。でも茶畑のオーナーを募集したり、カフェを運営したり、こうして新しいことを始めて、茶農家以外の若い子たちもお茶が好きで足久保ティーワークスに集まってくれている。お茶がつなぐ縁があることを感じて嬉しく思っています。
- 浅蒸し茶 緑風
遥か遠くまで広がる草原で、青葉の香りを感じるような景色が広がる煎茶
浅蒸しの特徴ながら、地で育った清らかな旨味で、スイートコーンのような甘さも感じます
・品種:やぶきた
・クラフト:浅蒸し
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:煎茶
商品はこちら
取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ
茶畑のオーナーに?それともマイ茶の木を植えてみる?
静岡市の市街地から車で10分程度の足久保ティーワークス。伝統的な浅蒸し製法のお茶を作りつつ、次々と新しい試みを行っています。その一つが製茶工場の前のカフェ。フレーバーティーやアレンジティーを、静岡茶が生まれた特別な場所で、ゆっくり楽しむことが出来ます。茶畑を見渡せるテラス席もおすすめです。また、現在注目されているのは「茶畑オーナー制度」。足久保の茶畑を継承していくための、持続可能な試みを支援すれば、年4回、足久保のお茶が届き、特別価格でお茶にまつわるイベントを体験できます。更に茶農家とともに茶の木を自分で植えて育てる「マイ茶の木プラン」(マイ茶の木プランの申し込みは2023年4月5日まで)も用意されています。
平成9年に足久保の茶農家が約50軒集まり発足した「足久保ティーワークス茶農業協同組合」。組合では茶園管理を徹底、安心安全で美味しいお茶づくりを目指し、静岡茶発祥の地足久保のお茶をより多くの方に知って、飲んでいただくため、様々な活動をしています。
足久保ティーワークス茶農業協同組合
静岡県静岡市葵区足久保口組2082-2
054-296-6700
組合員が大切に育てたお茶を、丁寧に優しくつくり、ティーワークスのお茶を飲んでいただいた方にこのこだわりが伝わるようにお茶をつくります。