父が見つけて「これはいい!」と名付けた茶の木が「香寿」でした。〜丸高農園〜
とにかく研究熱心な父。単なる仕事だとは思っていないかもしれない。
遊びというか、趣味の領域までお茶が入っていると思います(笑)
目 次
圧倒的に香りがいい、それが丸高農園らしいお茶
丸高農園はどのようなお茶を作っているのですか?
高橋一彰さん(以下「高橋」)
やぶきた一辺倒ではなく他にないものを作りたくて、特徴のあるお茶を作っています。
代表作は「香りのあるお茶」。「微発酵茶」や「萎凋煎茶」もあります。
現在のお茶作りは20年くらい前から父が取り組みはじめ、台湾製の釜炒り機を導入したのが大きなきっかけになりました。
今は香りのする日本茶の人気が出始めましたけど、それって本当に最近なんです。萎凋が進んだ煎茶はあまりよくないものとして扱われていたし、20年前に半発酵茶に取り組む農家は殆どありませんでした。さらにその10年前からやっている農家さんが静岡県島田市の伊久美村にいらっしゃるんですけど、その方くらいだと思います。
主流のやぶきた以外にもいろんなお茶があった方が消費者は楽しいだろうと思ったことと、製造側も、摘採時期がずれれば製造日が集中しないというメリットがありました。でも、単に仕事の方針だけではなくて、「ちょっと変わったお茶を作るのがおもしろい!」という半分遊びと興味の気持ちが絶対あったと思います。取組みの中心は父ですけど、とにかく父は研究熱心なんです。遊びも仕事のうちというか、お茶への情熱がすごくて、「仕事だからやる」という線引きはせずにお茶作りに没頭していました。
一彰さんは当時から家業に携わっていたのですか?
高橋
いいえ、私が家業の丸高農園に入って14年くらいです。お茶をやるかどうか、学生の頃はまだ気持ちが定まっていなくて、愛知県の会社にエンジニアとして就職したんです。
でも、子供の頃からずっと、お茶時期(新茶の芽吹く5月〜6月)は家業を手伝うのが当たり前だと姉も私も思っていたし、ゴールデンウィークに遊びに出かけた記憶はほとんどないです。それが当然でした。茶農家の子はみんな、それが普通なんじゃないですかね。お茶はいつも生活の中心にありました。
そのころ父は、釜炒り機でおいしいお茶を作ろうと試行錯誤していました。煎茶の品種である「おおいわせ」とか「おくみどり」とかでも試したけど、納得のいくものができない。在来種の茶園でも試していました。当時の父は、ちょっと変わった茶の木があったら摘んで香りを試すということをかなりの数、繰り返し繰り返しやっていたようです。
その中でようやく巡り会えたというか、特別に、とてもいい香りがした茶の木に出会ったんです。それを増やして茶園にしました。この茶園です。
茶の木の樹勢そのままに、贅沢な手摘みの茶園も
かまぼこ型の畝にしない、茶の木をそのまま伸ばす自然仕立てなんですね?
自然仕立ての茶園は機械で摘採せず、新芽が出た最も良いタイミングで手摘みする、大変な労力がかかる希少な畑です。
高橋
はい。このお茶は香寿といいます。
丸高農園としては一番推しているので、丁寧に大切に育てています。香寿は父の見つけた、オリジナルな特別なお茶ですから。
摘採の時期になったら、お茶摘みさんを5〜6人お願いして、一斉に摘み取ります。
私たちの茶畑はいろいろな場所に全部で10ヵ所くらいあって、自然仕立ての茶園も品種や日の当たり方によって摘採の時期が微妙に違うので、お茶摘みさんにお願いして「今日はあそこの畑」「明日はこちらの畑」と、いろいろ行っていただきます。
近年、お茶摘みさんも高齢化が進み、減ってきてしまっているのが目下の悩みです。お茶摘みさんに来てほしい自然仕立ての茶園は我が家以外にもあるので、需要はあるんですが……。
左の畝の茶畑も綺麗ですね!
高橋
これは台湾系の品種で「春巡(はるめぐり)」と名付けました。萎凋すると花のように甘い香りがするお茶です。本当に華やかないい香りですよ。微発酵茶を作るときはまず日干萎凋するんですけど、その時点で出てくる香りが全然違うんですよね。作っているときから「いい香りだなあ」と思っています。後で飲んでみましょう。
ところで我が家で一番の急傾斜の茶園に行ってみますか?
すごいですね。車では登れない急傾斜です。
高橋
滑るので気をつけてください。モノラックの線路に沿って歩くと歩きやすいですよ。
ここにも自然仕立ての茶園があります。お茶摘みさんにもお願いして、ここまで登ってきてもらうんです。なぜこんな大変な思いまでしてここで作っているかというと、霜の被害を若干防げるからです。この畑のお茶は早生品種のため、新芽の出る時期が早く、他品種より霜の被害を受けやすいのです。傾斜の畑で、少しでも霜の被害を防ごうと考えています。
その他の自然仕立ての茶畑は、土が良いことを最優先にして栽培しています。お茶は土が命です。
同じように手をかけても、いい土の茶園は味が違う。今は所有する茶園の総面積を減らして、少数精鋭といいますか、より少ない面積で丁寧なお茶作りをしています。
機械で茶を摘採できるように整えた茶畑でも、この傾斜ではもちろん乗用摘採機は入れませんから、二人がかりで摘採しています。
いろいろな茶畑を見せていただいてありがとうございました。
茶を飲み、茶園の傾斜、そこに吹く風を思う
高橋
では茶畑から降りて、お茶を淹れてみますね。
まず、これが発酵させた釜炒りの「香寿」です。萎凋は6〜10時間くらいです。萎凋して香りを出し、釜炒りですっきりした味わいに仕上げています。
それを一晩、水出しで淹れています。
本当に香りがすごい! 幸せな気持ちになりますね。
おいしいです。華やかなのでお茶請けがいらないです。お茶だけで充分満たされます。
高橋
ありがとうございます。作っているときの香りもすごいんですよ。
- 香寿 半発酵茶
香の寿と、おめでたい名前をいただくに値する格のある味わい
水出しで楽しめばマスカットのようなフルーティーな味・香りに圧倒される
・品種:香寿
・クラフト:萎凋
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:半発酵茶
商品はこちら
ああ、また違ういい香りが!
高橋
こちらが「春巡」です。葉っぱが大きいことが分かりますか?
台湾系のお茶(または半発酵茶)は煎茶と違って製造方法が手探りのところもあって、いろいろな方に教わりながら試行錯誤しています。台湾のお茶を取り寄せて試飲するのもそうですし、アドバイスを受けて成熟した硬葉で作ってみたり、肥料を控えてみたり、本当にいろいろやっています。
渋みの後に甘みが来ます。これを家で淹れるとしたらコツはありますか?
高橋
パッケージに表示している茶葉4g熱湯200ml、抽出は1分30秒でおいしく淹れられますが、もし渋みが出ても大丈夫、少し濃いめが好きということでしたら、表示より多めの5g、2分30秒くらいを抽出時間にすると好みの味になると思います。
- 春巡 半発酵茶
茶の木は椿科であり、白い椿の花が咲く
暖かな太陽の下で、自由に背を伸ばすお茶の気持ちを少し垣間見れる半発酵茶
・品種:春巡
・クラフト:萎凋
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:微発酵茶
商品はこちら
最後にお伺いします。一彰さんの好きなお茶は何ですか?
高橋
自分の好みですか? 文山包種とか、好きですね。そういういい香りのすっきりしたお茶が好きです。私たちの仕事って、プライベートと仕事を切り離せないんです。自分も農家になってそれが分かりました。作ったお茶は自分が味を知っておかないといけないですしね。そのためにいろいろな人の意見を参考にしたり、人の作ったお茶を飲んで研究したりする。父が没頭していた気持ちが今、よく分かります。
植物が好きな母と、研究熱心な父と、一彰さん。
後日、高橋さんのアドバイスのとおり、「春巡」を自宅で淹れてみました。
茶葉は大きく、軽く撚(よ)れていて、煎茶とは全く違います。
茶葉5g抽出時間を2分30秒にしてみました。さらに味に深みが出て甘い! そして香りの華やかさが増します。いわゆる「煎が利く」というのか、4回目に淹れたときもおいしく飲めました。急須で徐々に開いていく茶葉は、ほぼ原型に戻っていて、とても美しいものでした。
取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ
父子のタッグが最強。目利きの茶商からお茶
好きの主婦まで幅広いファンを魅了する香り
息子の一彰さんも舌を巻く、父の茶業への取り組み。とにかく研究熱心で、調べずにはいられない、育てずにはいられない父の情熱から「香寿」や「春巡」、「みどりご」が生まれました。丸高農園の代名詞とも言える「香りのあるお茶」は、中国茶の大胆さと日本茶の繊細さをかけ合わせたような、言わばハイブリッドの魅力を放ち、従来の「静岡茶」の概念を覆すものであることは間違いありません。分からないことがあれば国内はもちろん、海外まで聞きに行き、知見をプールしていく父子がタッグを組んで作っている「微発酵茶」。茶園を丁寧に慈しんで育て、それを最大限に活かす製法で仕上げられたお茶は、花のように華やかな香りで私たちのお茶の時間を彩ってくれます。
お茶の丸高農園 店長の高橋一彰です。
茶処静岡、本山(ほんやま)産地にて特徴あるお茶づくり、萎凋したお茶づくりにも勉強しつつ取り組んでおります。
丸高農園
静岡県静岡市葵区小瀬戸2413-1
054-278-1141
やぶきた一辺倒ではなく他にないものを作りたくて、特徴のあるお茶を作っています。 代表作は「香りのあるお茶」。半発酵茶や萎凋煎茶もあります。