独特の香気は「この土地の土がいいから」〜望月茶園 後編〜
目 次
手摘みの新茶で一服
望月瑞歩さん(以下「瑞歩」)
これは本当に走りの、手摘みの新茶です。
色がきれいですね!香りも青々として、とてもおいしいです。
瑞歩
まだ、若い畑なんです。これから土が良くなっていくと、更に味が出ると思います。それにしても、午後になって急に冷えてきました。熱めのお湯で淹れて正解でしたね、急須の中も見ますか?
ありがとうございます。鮮やかな色!
瑞歩
ここでは毎年、ゴールデンウィークにお茶摘み体験を行うんです。摘んだお茶は、後日郵送するのですが、来てくれた子どもたちに「自分たちの分は、自分たちで摘まないといけないんだよ」と話すと、頑張って摘みますね(笑)。木の遊具は、じいじのお手製です。うちの子どもたちも、よく遊んでいます。父は、エクステリアや土木工事もできるんです。毎年、この茶畑に100名くらいはいらっしゃって、私たちの畑を楽しんでくれています。
高校生の頃から「ヤブキタ」改植に着手
望月政治さん(以下「望月」)
このあたり(平野)も農家が減って、今は町内で3、4軒くらい。「(茶業を)できなくなった。荒れた茶畑を放置したままにするのも心苦しいので、やってくれないか」と託されて、定植したり改植している茶畑が何ヶ所かあります。昔は農家も、このあたりに50軒くらいあったんですよ。共同工場は3つあった。
瑞歩
お父さんは茶師もやっているから、生葉から仕上げまでで大忙しでした。
望月
朝までになっちゃったりね。茶の生葉が多い時は全然終わらなくて、お茶を揉んで、眠らずにまた、畑に行くということをしていました。最盛期は、工場側も「何キロまで」って制限して、持ち込めなかったんです。お茶の量が多すぎて。
時代の移り変わりを見てきたのですね。
望月
それより以前、ずっと昔は、自分の家でお茶を作っていたみたいです。お茶を蒸して、水車を回して水力でやっていたのかな。よくは知らないんだけど。
望月家はずっと農家なのですか?望月さんは何代目ですか?
望月
僕は26代目。
26代目!?すごいですね!
望月
その頃からお茶を家業にしていたかは、分からないんだけど。親が病弱だったから、高校時代から私が中心となって「ヤブキタ」に改植してきました。最初のころ、ヤブキタは生葉で40キロしかなかったです。地域の中でも改植が遅くて、ジグゾーパズルみたいな小さい茶畑ばっかり。悔しくて、発奮して、車が入れないところはウィンチとモノラックを使ってやりました。平らなところは重機で改植できたから楽でしたけど。
瑞歩
お父さんが開墾してくれたから、乗用(摘採機)が入れる畑が増えました。それでも山の方は二人刈(ににんがり)*だったりするので。
*二人刈…バリカン状の二人用茶作業機を用い、茶の畝をふたりで挟み茶刈りをすること。乗用摘採機が入れない山あいの茶畑でも使用が可能。
お茶は生き物、だから可愛い
瑞歩
このあたりでは、通常、二番茶はやらないんです。人手が足りなくて、採算も合わなくて。一番茶の奥芽を二番茶として、世に出しています。でも去年、純然たる二番茶で、烏龍茶や紅茶を作らせてもらったら大好評だったんです。私、それが嬉しくなっちゃって(笑)。緑茶以外もいろいろ作ったら喜んでもらえるかも、と思ってスタートしたんですが、同じ茶葉から違うお茶に変化していくのが面白くて、自分がハマっちゃって。茶の木を育てて、いいお茶ができたら面白いじゃないですか。
望月
茶の木は生き物だから、可愛く感じるんですよね。育てていると愛情が出てきます。「荒れてる畑を見てやってほしい」と託されると、何よりまず、畑が可哀そうになってしまって。
瑞歩
お父さんが完璧に茶園の管理をしてくれて、緑茶の味があっての、烏龍茶や紅茶です。
このへんの地域は、新茶を最初は手摘みするんですか?
瑞歩
そうなんです!大体、5月に入ってからの摘採なのですが、みんなで最初は手摘みをします。その時期、茶畑が濃い緑からきれいなグリーンに染まって、風になびくのを見るのがすごく好きです。
望月
お茶の味と香りは、やはり土。実は、うちの畑はある検査機関から土が抜群にいいと褒められまして。ふかふかしているんです。
瑞歩
だからなのか、独特の山のお茶の香りがします。イベントで呈茶をすると、必ず何か感想をいただきます。それほどいいお茶なので、やっぱりブレンドはしたくないです(笑)。
- 本山茶 芽吹
細かな火入れによってバランス感のある味わいに仕上げた煎茶は
燻のかかったスイートコーンのような味わいが特徴で、食後のシーンにピッタリです
・品種:やぶきた
・クラフト:浅蒸し
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:煎茶
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取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ
香気のある山のお茶を
静岡市の山間部で茶園を営む望月茶園。細部まで行き届いた丁寧なお茶作りが評判です。味が乗るまで待ってから手摘みする新茶にもそれは表れます。よく熟しているお茶の芽を「ポキンポキンと折ること」が望月さんの毎年の楽しみ。「香気のある山のお茶が自慢です」と瑞歩さんも口を揃えます。「どんなに肥料を上げても、よその土地ではこういう味にならないと思うんです」。瑞歩さんは、一方で若い仲間と烏龍茶や和紅茶作りにも挑戦。商品化一年目から好評を得た理由は、「手を掛け、可愛がって作る緑茶が土台にあってこそ」。惜しみなく愛情をかけられたお茶は、山の香りをまとって手元に届くはずです。
奥静岡の川露と山岳の恵みのなか育まれた、風味豊かなお茶です。
烏龍茶や和紅茶作りにも挑戦しており、惜しみなく愛情をかけられたお茶は、山の香りをまとって手元に届くはずです。
望月茶園
静岡県静岡市葵区平野145番地
054-293-2051
細部まで行き届いた丁寧なお茶作りが評判です。