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お茶は工芸作物、アプローチ次第で全く違う完成品になる 〜森内茶農園 前編〜

初めて来たのに懐かしく感じる
森内茶農園の茶畑。美しく整えられた茶畑は「もう趣味の域」とご本人が笑うほど、丹精込めて手入れされています。郷愁に駆られる風景は、日々の丁寧な仕事の賜物でした。静岡人にしては珍しく、早口。静岡弁で紡ぎ出される森内さんの言葉は、お茶好きなら一言も聞き漏らしたくない金言ばかり。経験と熱心な勉強に裏打ちされた、貴重なお茶の話を伺いました。


名刺代わりに、今、大人気の香駿の畑へ

森内さんはどのような茶農家さんですか?

森内さん(以下「森内」)

どのような茶農家って、口で説明するのは難しいね。まずは畑を見てみますか?
これは「香駿(こうしゅん)」の畑です。


これが「香駿」ですか? 香りがものすごく良くて、大人気のお茶ですね。

森内
うちは、「香駿」の先駆けですよ。いくつかの茶農家で植えたけど、その中で本格的に続けたのはうちだけでした。特徴がありすぎて、当時は引き取ってくれるお茶屋さんがあんまりなかったから、みんな嫌になっちゃったんだと思う。でも、作りがいのあるお茶で、香りをどうやって引き出したらいいのか、ずっと工夫して作ってきたの。そしたら普段、中国茶とか紅茶しか飲まない人が、「香駿」を飲んで、初めて日本茶が好きになってさ。

それはすごいですね。

森内
その後、いろいろな品種や、産地のお茶を飲んでくれるようになって、嬉しかったです。「香駿」は、やっぱり香りがいいんだよね。「かなやみどり」の血を引いているから、意外に寒さに強くて、山で育てるのにいいお茶だと思います。徐々に人気が出始めて、今はすごく引き合いがあります。「ヤブキタ」を改植して植えたんだけど、そういうわけで、最初は大変でした。

農家人生46年、茶の木の植え替えをしなかったのは2年だけ

改植とは、茶の木を植え替えることですよね。お茶は根が深いから大変な労力が要ると聞きました。

森内
大変だよ。大変だけど、それが生産者の活力だもの。私はハタチで農家をやりはじめて46年経つけど、改植しなかったのはそのうち2年だけです。ずーっと、ずーっと、やり続けてる。

驚きです。改植後、3年くらいは収穫できないですよね。茶農家でもそんなに改植するのは珍しいことではないですか?

森内
そうですね、珍しいです。茶の木が育つまでの期間は収穫できないし、だからお金になんないじゃんな。だもんで、みんなやらないんです、リスキーだもの。元の収入まで完全に回復するには7年近くかかってしまいます。

改植も視野に入れて茶園経営をしてきたということですか?

森内
そうです。改植を織り込んで茶園面積を確保しないと大変なことになってしまいます。1年間で5畝(せ)改植すると、7年だと3反5畝(せ)、遊んでいる畑があるということ。私は3年で2反以上を目標に、細かく、細かく、改植してきました。でも、意識的に改植するようになったのは、30代に入ってから。どうしたら茶農家として生き残れるかを考えるようになってから、本気になって、真剣になって、改植を考え始めました。

*日本における尺貫法の単位で、茶畑の面積を表す時によく使用される。
1歩=1坪、1畝(せ)=30坪、1反=300坪、1町=3,000坪。

「ヤブキタ」1種類でも、作り方は4パターンある

今、お茶は何品種くらい作っていますか?

森内
20品種くらいかな。そのうち、売買しているのは15、16品種くらいです。その他はまだチャレンジ中だったり、試していたり。

すごく多いですね! そのうち「ヤブキタ」は何割くらいですか?

森内
「ヤブキタ」は6割程度。でも、その「ヤブキタ」も、有機農法だったり、かぶせ(被覆栽培)してみたり、機械摘みもあれば手摘みもあって、4パターンくらいは作り方を変えています。でもこれは全然珍しいことではなくて、どの農家も同じ作物の育て方を変えてみたり、違う品種を入れたりして、経営全体をうまく回すようにしていると思います。先ほどの「香駿」は、園地条件によっても香気の質が変わってきますし、アプローチの仕方で発揚する香りが非常に特徴的。普通煎茶と微発酵茶では、全く別の品種みたいで、それがまた面白い。半分、道楽みたいなものだって、かみさんには叱られていますけど(笑)。

やぶきた 浅蒸し煎茶

鋭く、力強い形状から感じる丁寧な手仕事
階段を駆け上がるようにフィニッシュを迎える味と香りはまさに職人技で感動

品種:やぶきた
クラフト:浅蒸し
ブレンド:ストレート
ジャンル:煎茶

商品はこちら


やぶきた かぶせ茶

ミルキーな味わいの先に、綺麗な海苔香を感じるかぶせ茶
湖畔の古民家で、朝方の木漏れ日を感じながら、味わいたい

品種:やぶきた
クラフト:浅蒸し
ブレンド:ストレート
ジャンル:かぶせ茶

商品はこちら

お茶は世界と伍して戦える工芸作物

別物になるほど変化するのは面白いですね。

森内
「香駿」は、どの香り成分を鼻が捉えるかで、受け止め方は人によって違います。お茶は好き嫌いがはっきりした嗜好品であり、工芸作物でしょう。「日本の農産物で世界と伍して戦えるものは、他の追随を許さない工芸作物である」、と言われてきたのを知っていますか? 私は大学の先生からこれを聞いたんだけど、「ああ、お茶のことだ」と思いました。ある品種のお茶を植えることなら誰でもできるし、出来上がりに大差ないかもしれないけど、お茶はアプローチを変えたり、技術を駆使して、全然別のものを完成させることが出来ます。日本には他の追随を許さない技術がありますし、お茶は世界と伍して戦える工芸作物だと思うんです。

手摘みした生葉を、手で揉んで仕上げる希少なお茶

この茶畑は何ですか?

森内
これは、ビニールハウスで手揉みの品評会用のお茶を、自然仕立てで作っています。手揉み茶は分かりますか?工場の機械で仕上げるのではなく、すべての工程を手作業で、つまり手で揉んで製茶することです。明治時代の中期くらいまでお茶はこの方法で作っていました。自然仕立ては分かりますか? ほら、茶の木が畝になっていないで、ボサボサ上に伸びているでしょう? こういう茶園を自然仕立てと言います。芽の高さが一定ではないので、機械では摘めません。手摘みするしかないんです。手で摘んだお茶を、手で揉んで製茶する。つまり最初から最後まで機械を使わないで仕上げるお茶です。

文字通り、とても手がかかっていますね!

森内

はい、とても貴重です。

後編 ロンドンの名門 ホテル「クラリッジズ」で森内さんのお茶を に続きます。

取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ

イチオシポイント

手揉みから紅茶まで、品種も製法も豊富で幅広い

「イチオシと言われると困る」と話す森内さん。出来の悪い子が可愛いのと同様に、「農家は自分の作った作物に、優劣をつけられないだよ」。そこでますみさんが一言、「特におすすめをしないところがうちのおすすめかも」。品種、製法が色々あるから、研究熱心な森内さんが作る、まだ名前もついていない最新のお茶がいただけるかもしれません。「その中でどれか一つぐらいは、好きなお茶が見つかるのではないでしょうか(笑)?」。お茶を育て、仕上げ、時には手で揉んで完成させる森内さんと、最高の淹れ方を考えて、お客をもてなすますみさん。お茶を愛してやまない夫婦のチームプレーも大きなイチオシです。

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【お茶のある楽しい暮らしのお手伝い】をコンセプトにお茶とともにお茶の魅力を伝える活動をしています。
12以上の品種をそろえ、煎茶、釜炒り茶、ウーロン茶、紅茶と作り方もいろいろです。森内茶農園ならではの多くのお茶の中からお好みのお茶をお選びいただけます。

森内茶農園

静岡県静岡市葵区内牧705

054-296-0120

夫婦で管理した茶畑の新鮮な茶葉だけを使い自宅の茶工場でお茶を作る江戸時代から続く小さな茶農家

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