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ロンドンの名門 ホテル「クラリッジズ」で森内さんのお茶を 〜森内茶農園 後編〜

茶畑を見た後、実際にお茶を淹れていただきました。
「畑を見た後のお茶は、没入感がすごいよ」と森内さん。それでは、めくるめくお茶の世界へ。


何のためにお茶を作るのか

当然かも知れませんが、お茶それぞれにぴったり合った育て方を考えているんですね。

森内
そうですね。例えば「摩利支(まりし)」は早生で、「ヤブキタ」よりも早く芽が出るんですが、その分、霜の被害の恐れがある。うちの畑のような山の斜面はまだ山風がフワっと吹くのでいいんだけど、平ら(平野部)に持ってくると、放射冷却で風の温度も物凄く下がるから、いくら防霜ファンがあっても凍霜害に遭ってしまいやすいんです。平らは乗用が使える点はいいんだけど……

「摩利支」の実力を引き出せないわけですか?

森内
「摩利支」だけじゃないよ、どの品種も同じ。人間の都合で決めるのではなくて、茶の木の生理を分かってあげないといけないと思います。「香駿」もそう。よく出来た年はすごくいい香りがして、悪い年は全然香りがしない。なぜなんだろう? 疑問に思うから研究を重ねるんです。「蒼風」も、特徴的なマスカットフレーバーをできる限り発揚させてあげなきゃと思っています。

「摩利支」はいわゆる山のお茶ですが、製法は浅蒸しが向いているんでしょうか?

森内
作り手の話をするなら、技術がない人は浅蒸しはやめたほうがいいです(笑)。長く蒸してしまえば、技術がなくても、色々なことに斟酌する必要はありません。ただ、もったいないのは、深蒸しにするとせっかく早く芽が出た新茶らしい香り、少しミルキーな感じも併せ持つあの香りが、全て消え失せてしまうこと。摩利支が早生だという点にだけ価値を置くなら、静岡で作っている意味がないじゃんね。もっと早く新茶が発売される地方はあるんだから。

何のために「摩利支」を作るのか、ということですね。

森内
そうです。ただ、早く収穫できて相場の価格がよければいいと思う人がいるかも知れないけど、そうではなくて、「この特徴的なお茶を消費者に伝えたい」という気持ちがあれば、自ずと作り方も決まってきます。飲むなら浅蒸しです。

蒼風 煎茶

晴れやかな夏の日に、パキッと見える富士山を思い浮かべるような煎茶
青葉の草原のような味わいと、太陽の力を受けた温かさを同時に感じる味・香り

品種:蒼風
クラフト:浅蒸し
ブレンド:ストレート
ジャンル:煎茶

商品はこちら

ミントを摘んで入れたり、お茶は自由に愉しんでいい

お話を沢山伺ったので、お茶が楽しみです。

森内真澄さん(以下真澄

いろいろな茶畑に連れて行かれて、疲れていませんか(笑)? お茶を飲んでゆっくりしてくださいね。今、淹れたのは「ゆめするが」です。「ヤブキタ」と「おくひかり」の子供で、

森内
駿河湾の青い海と空をイメージしているんです。

本当にきれいな色ですね!

森内
水色(すいしょく)は透き通って、苦み、渋みが少ない。強烈な旨味というより、甘みが残ります。荒茶も青みがあってきれいですよ。遠くから来た人に「静岡のお茶ですよ」と言って淹れてあげると喜ばれます。「ヤブキタ」は旨味も強いけど苦渋さもあるもんで、淹れ方をしくじると結構難しいんです。丁寧に淹れると、味も香りも深くて、さすがにキングの風格なんだけど。

真澄
「ゆめするが」は大勢の人に一度に淹れる時もおすすめです。色がきれいですし、少々雑に淹れても(笑)、おいしく入ります。熱いうちに飲んでみてください。ミントを入れてあるんです。夏だと水出しにして、もうちょっとミントを強めにします。

ミントがアクセントになっていて、温かくてもおいしいですね! 本当に甘いです。

森内
お茶にもクセがないもんで、いろいろなアレンジができます。甘いでしょう? 採る(摘採)タイミングを逸してしまうと、「おくひかり」が強く出てきてしまうんだけど、みる芽で採ってあげると、非常に上品な味になります。あとは、静岡らしいお茶といえば「つゆひかり」もそうかなぁ。組織がすごく柔らかくて破砕しやすいから、気をつけて浅蒸しで作ってあげると、葉っぱそのものの青みが浸出液に出てきれいです。

真澄
味も濃厚な旨味で、みんなびっくりします。夏は水出し、氷出しでウェルカムティーにすると喜んでもらえます。

森内
茶の葉に氷を載せて、溶けたところを少しずつ啜って飲むと物凄くうまいし、すうっと身体が冷えていきます。

聞くからにおいしそうです!

丁寧に作っていれば、大舞台に引き立てられることもある

最後に、若手の生産者へメッセージをお願いできますか?

森内
ロンドンのホテル「クラリッジズ」って知ってる? 

もちろん知っています。名門ホテルですよね。

森内
そこのアフタヌーンティーに、うちの紅茶が使われているんです。

えっ!? すごくないですか?

森内
今まで和紅茶は一段格下に見られて、甘いだけだとか、本場のものとは程遠いだとか、散々言われてきたけど、海外の紅茶に造詣の深い方が、選択してくれる場面もあるということを、若い生産者に伝えたいです。一生懸命作っていても評価されずに傷ついてしまう時があるかもしれないけど、世界のどこかに、誠意を持ってお茶作りをしていることを見ていてくれる人がいます。緑茶の場合もそう。うちは、全体の6割が斜度30度以上の茶畑なんです。今どき乗用も入らないじゃないか、今頃手でやってるのか、とバカにされることがあっても、その風景で作られたお茶を飲みたいという人が世界にいることを私は知っています。だから君も頑張れよと、若い生産家にはそう言いたいです。

ありがとうございました。いつかクラリッジズでMoriuchi Kouchaを飲んでみたいです!

みなみさやか 紅茶

ローストした橘やゆずを想像させるスパイシーな香り
キリッとしたポリフェノールで、味の輪郭もはっきり
ミルクの相性も抜群で、アレンジも楽しめるみなみさやか紅茶

品種:みなみさやか
クラフト:発酵
ブレンド:ストレート
ジャンル:紅茶

商品はこちら


取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ

イチオシポイント

手揉みから紅茶まで、品種も製法も豊富で幅広い

「イチオシと言われると困る」と話す森内さん。出来の悪い子が可愛いのと同様に、「農家は自分の作った作物に、優劣をつけられないだよ」。そこで真澄さんが一言、「特におすすめをしないところがうちのおすすめかも」。品種、製法が色々あるから、研究熱心な森内さんが作る、まだ名前もついていない最新のお茶がいただけるかもしれません。「その中でどれか一つぐらいは、好きなお茶が見つかるのではないでしょうか(笑)?」。お茶を育て、仕上げ、時には手で揉んで完成させる森内さんと、最高の淹れ方を考えて、お客をもてなす真澄さん。お茶を愛してやまない夫婦のチームプレーも大きなイチオシです。

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【お茶のある楽しい暮らしのお手伝い】をコンセプトにお茶とともにお茶の魅力を伝える活動をしています。
12以上の品種をそろえ、煎茶、釜炒り茶、ウーロン茶、紅茶と作り方もいろいろです。森内茶農園ならではの多くのお茶の中からお好みのお茶をお選びいただけます。

森内茶農園

静岡県静岡市葵区内牧705

054-296-0120

夫婦で管理した茶畑の新鮮な茶葉だけを使い自宅の茶工場でお茶を作る江戸時代から続く小さな茶農家

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