地元で連帯した山の小さな茶産地〜ネクト〜
- 今は会社組織となっているネクトは、元は小さな共同工場が集まって成り立ったもの。仲の良い農家がしっかりと絆を結び、土質のよい茶畑をみんなで育てています。努力を重ね、柔軟な考えで、新しい販売先との結びつきを強固なものにしています。
目 次
他には誰も来ない秘密の山の茶園
今日はよろしくお願いします。ずいぶんと山道を上がってきた気がするのですが、狭い道から急に開けて、こんな広大な茶畑が広がっていることに驚きました。
石原弘敏さん/(以降「石原」)
広いでしょう。ここは標高400mあって、お茶時期(茶の芽が芽吹く頃)はすごくきれいなんです。でも茶摘みに忙しくて、毎年、しっかり見られないのがもったいないと思っています。
早速ですが、ネクトさんは何種類くらいの品種をつくっているのですか?
石原
大体10種類くらいです。うちでは、今見てもらった「摩利支」が一番早生で、摘採時期が早いです。でも、基本は「ヤブキタ」かな、やっぱり。同じ「ヤブキタ」と言っても、うちのような山の「ヤブキタ」と、大地の「ヤブキタ」では味が全然違うんですよね。山のお茶といえば、川根*とか、天竜*もそうだけど、山独特のお茶の味、それだけは、真似しようと思っても真似できない。同じ山のお茶でも、うちが天竜のお茶を真似しようと思っても無理なんです。美和*とここだって、距離は近くても味が違うくらいだから。自分の畑の土の性質を知って、土と上もののバランスをいかにうまく作るか、それが農家が昔からずっと考えて、やっていることなんです。
*川根…静岡県の大井川上流の山間部の茶産地。
*天竜…静岡県浜松市北部の山間部の茶産地。
*美和…ネクトの所在地である新間に隣接する安倍川中流域の茶産地。
山のお茶ということは、製法は普通蒸しもしくは浅蒸しなんでしょうか。
石原
元来は浅蒸しでしたけど、今は深蒸しも作ります。品種や植わっている畑によって分けています。工場はラインが複数あるので、浅蒸しと深蒸しを同時に作っているんですよ。先ほども言いましたけど、お茶って、今、私たちがいる山の上の方の茶畑、それからネクト(本社工場)の周りの平野の茶畑、それぞれの畑で味がぜんぜん違うんですよね。昔は個々の農家にそれぞれ小さな茶工場(こうば)があって、荒茶まで仕上げていました。小回りがきくから、農家が自宅で飲むお茶は「この茶畑のお茶にしよう」と決めることもできました。一年分を摘んで、荒茶に仕上げて、それを普段飲むお茶にしていたんです。だから「その農家でしか出せない独特の味」が、今よりはっきりしていました。「あの家の茶畑は水はけがいいからやっぱりおいしいな」、とか、自然と体感できていたんです。
それはネクトさんがある「新間(しんま)」の農家さんということですか?
石原
そうです。このあたりの農家はみんな仲が良くて、それぞれの畑のこともよく知っているし、「やろう」となったらすぐに団結します。お茶のことじゃなくてもね。地域のことを大切にしています。
地元・新間の農家の仲の良さ
石原さんは地元である新間のことが好きですか?
石原
好きですね。ネクトの周りは何もないでしょう。春には川沿いに桜が咲いて、その時はちょっと人が見に来るけど、普段はとても静か。なのに渋滞さえなければ静岡駅まで15分くらいで着いてしまう。生活には便利だし、騒々しくもない。住むには最高です。他で暮らそうと思ったことは一度もないな。
小さな頃から農家を継ごうと思っていたのですか?
石原
「絶対に継ごう」と思っていたわけじゃないけど、父親とおじいさんが「お前は将来、農家をやれ」っていうもんでね。宿命でした。うちは代々農家だから。
ネクトさんは自園の農家とは違って会社組織ですよね?石原さんが立ち上げたのですか?
石原
いいえ、立ち上げたのは先代の社長で、僕は2代目です。もともと新間には4つの小さな共同工場があって、自分はその1つに属していたんです。ネクトはその4つの共同工場が集まって成り立ったものです。当時、私は4つの共同工場プラス自園の農家が組織する委員会の役員をしていて、そのとき「一つにまとまらないか?」という話が出たんです。でも、当時はまだお茶も高値で売れていたから、果たして一つにまとまる意味があるのか、茶農家それぞれの考えがあって、みんなに納得してもらうのに5年かかりました。先のことなんて誰にも分からないでしょう?お茶の状況がこんなに変わるなんて、私も予想していませんでした。ともかく、当時、「みんなで一枚岩になって頑張ろう」と、ネクトがスタートしたんです。
石原さんから見て、ネクトさんは一枚岩になっていますか?
石原
なっていますよ。さっきも言ったように、新間は仲がいい地域なんです。誰かの足を引っ張ったりする人がいない。ネクトが立ち上がる前から、集落みんなで行う畑の整備にも協力的だったり、地域のイベントでまとまったりすることも多々あったので、自然に一つになれていると思います。お茶を取り巻く状況が変わり、茶農家の高齢化で乗用(摘採機)が入らないような急斜面の茶畑が、やむにやまれず耕作放棄になってしまったり、そんな中で、小さな茶産地が頑張っていると思います。売り先も、いろいろ増えてきました。
香りそして味に深みのあるお茶
ネクトさんの茶畑はどのように管理しているのですか?
石原
今は茶畑の担当の社員が3名いるので、技術指導を私がしています。茶業は経験がものを言うことが多いのですが、最近は気候が不安定で、夏に雨が多かったり、逆に少なかったり、基本通りの管理ができないことが多いです。気候を見ながら対応しなくてはならないので、経験が浅いうちはそのあたりの見極めが実に難しくて。春、肥料をまくのも毎日の天気を見て、相談しながら前倒しにしたりとか、そういうことが増えています。
石原さんは新間のお茶が好きですか?
石原
好きです。新間というか、藁科川全域のお茶が好きですね。清沢、本沢、羽鳥も。
藁科川全域のお茶の良さって何でしょうか?香りですか?
石原
香り、そして味に深みがあるところです。これは土本来が持っている力、土質がいいことが多分にあります。結局のところ、お茶は土に生かされている作物なので。私は土のいい地域に生まれたから、その恵みを大切にしてお茶をやっているんだと思います。
そういうよいお茶は全てリーフ(茶葉)に仕上げているんでしょうか?
石原
お茶好きな方は、「リーフで飲みたい」っておっしゃいますよね。急須で淹れるお茶は確かにおいしいです。でも、ティーバッグの利便性が捨てがたいのも分かるんです。ですから、おいしい煎茶のティーバッグを作りましたよ。いいお茶を使っているので、急須で淹れたのと遜色ないくらい、本当においしいんです。お茶好きな人は、色だけ綺麗でも満足しないじゃないですか。これはね、味もすごくいい。
何回(何煎)淹れてもおいしく淹れられる、つまり「煎が利く」感じですか?
石原
(笑)。ぜひ後で飲んでみてください。
楽しみです!
今見てきたお茶、そして自信作のティーバッグ
お茶を淹れてくださってありがとうございます。これは「横峯」というお茶なんですね?
石原
そう、さっきいた茶畑が「横峯」という地名(字=あざ)なんです。お話したとおり、土づくりからこだわった山のお茶です。
まさに地元のお茶ということですね。山のお茶とのことですが、製法は浅蒸しですか?
石原
これは浅蒸しと中蒸しのブレンドです。
石原
色味は深蒸しの方がいいと思います。どちらかというと浅蒸しの系統のものは、黄色い色をしています。だもんで、写真に写すには深蒸しの方が緑がきれいかもしれない。僕らが考えるには、深蒸しは色とコク。浅蒸しは旨味と香り。浅蒸しは上手に淹れてくれればすごくおいしく出せるけど、淹れ方をちょっとまちがえちゃうと渋いお茶になってしまいます。
石原
ぜひ飲んでみてください。いかがですか?
おいしいです。淡い色味なのに旨味がすごくあって、畑を見てきたばかりなので感激してしまいます。この色からは予想できない味の濃さがあるので驚きます。
- 浅・深蒸し 煎茶
"蒸し立てのスイートコーンを感じる煎茶はお湯を注ぐと、皮付きコーンに香りが変化
旨みと青みのバランスに優れ、ご飯のような満足感を楽しめる"
・クラフト:浅・深蒸し
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:煎茶
商品はこちら
石原
浅蒸し製法は、さらに二煎目、三煎目までずっと味が出て、さっきおっしゃっていたように「煎が利く」お茶です。次がティーバッグです。
商品名「静岡ほんやま茶 緑茶ティーバッグ マグカップ用ティーバッグ」
石原さんのおっしゃっていた自信作ですね!
石原
そうです(笑)。静岡ではまだ急須が家にある人が多いと思うけど、今は全国的に、自宅に急須がないおうちもあるじゃないですか。そういう方にも飲んでいただきたくて、「マグカップ用ティーバッグ」と名付けました。「マグカップで気軽に楽しめる。でも、気軽ながらも味わいは本格的」というコンセプトです。1杯目がなくなったらお湯を継ぎ足して、普通に二煎目、三煎目まで味わえます。90℃くらいが一番おいしいと思うけど、沸かしたての熱湯でも大丈夫です。
すごく綺麗な色です!
石原
これはいわゆる深蒸しベースなんです。お茶の一番難しいポイントは「淹れ方」。僕らのような専門家でも毎回、微妙に差異がある。だからこのティーバッグは、誰が淹れてもおいしいように作りました。ペットボトルも値上げしている昨今、お財布にも優しいと思います。
これはおいしい!淹れたてのお茶をティーバッグで気軽に味わえるのっていいですね。マグで飲むのもいいですが、ボトル1本分くらいは余裕で作れそうな味の濃さです。「気軽においしいお茶を飲んでほしい」という生産者の気持ちを感じます。
- 浅蒸し 煎茶
本山地域は人間にとって過酷な環境でお茶が生育し、他産地よりも葉肉が厚く、ミネラル豊富に育ちます。だからこそ、火入れを強く入れることが可能であり、その特徴を感じる煎茶です。
バタークッキーのような濃厚な甘みを楽しめます。
・クラフト:浅蒸し
・ブレンド:ストレート
・ジャンル:煎茶
商品はこちら
取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ
昔ながらの山のお茶をさまざまな手法で
ネクトのイチオシは、「茶畑の土が良いこと」。地域の農家が連帯して作られた組織だけに、地元の藁科川流域のお茶を丁寧に生産していて、創立からずっと、味に定評があります。そして今、考え方が柔軟なところも魅力の一つです。山のお茶でありながら、茶畑の場所や日当たりも考えて、浅蒸し製法だけでなく深蒸し製法も取り入れるなど、その茶畑に一番合った手法を選び、生産。消費者のライフスタイルの変化も考え、石原さんが自信を持っておすすめするマグカップで飲むティーバッグも考案。便利なだけではなく、おいしさはリーフからしっかりと継承しているところも、もちろんイチオシポイントです。
お茶のおいしさは、NECTの宝である、静岡県内でもトップクラスのポテンシャルを持つ「産地」と、生産者自身ならではの匠の技と知恵を結集させた「製法」を掛け合わせ、最高の一杯をお届けします。
有限会社ネクト
静岡県静岡市葵区新間2332
054-277-2111
気品ある香りと、旨味の強い「本山茶」を作り続け、生産から販売まで一貫して対応しております。