雨が降り土の水分量が上がると、山が鮮やかになる 〜斉藤茶園 後編〜
- 勝弥さんの後を継ぐため、斉藤茶園に入った娘の祐子さん。父の背中を追い、また、独自に和紅茶を作り始めています。茶農家の親子の絆、後を継ぐ気持ちについても伺いました。
目 次
茶畑のことは全て日記に記録して
斉藤さんは、お茶の日記を書いているとか?
斉藤勝弥さん(以下「斉藤」)
環境やお茶のことを考え始めると頭が休まらないから、ハタチの頃から記録というか、お茶の日記をつけています。何年も前の日記を読んで、去年撒いた肥料のことやなぜそれを撒いたのかという、自分の気持ちを考えながら茶畑で作業しています。日記を見返すと摘期のズレなどの不適切だった行動や、作業の失敗も見えてきます。
すごく貴重な資料ですね!
斉藤
支えにはなりますね。農家をやっていると「今、何をしたらいいだかな(いいのだろうか)」と、分からなくなる時もあります。日記を見て振り返って、そこで気持ちを決めて作業を進めます。手のかかるものばかり、21品種も作っていますから。
これはまだ植えたての木ですか?
斉藤
はい。まだ植えて2年の「さえみどり」の幼木(ようぼく)です。ここの畑は、これで2回目の改植です。茶の木を植えて20年くらい経つと改植をしています。有機農業ということもあって、茶の木の体を大きく作らないんです。スピードを上げて育てるようなこともしていません。「(育つのは)ゆっくりでいいだよ」と声を掛けています。だから収量は取れないし、ずんぐりむっくりです。
父の背中を見て、家業に入ることを決意
今年(2023年)は春先が暖かくて、新茶も早そうですね?
斉藤
木の芽も1週間くらい早いですね。でも、心配なのは雨が少ないこと。土の中の水分量が少ないと、肥料の溶液濃度が高まり、茶の木が養分を吸収できないのです。山を見てもそうでしょう。いつものこの時期なら、樹勢があって、山の杉の緑も鮮やかな筈なんです。今年は雨量が少ないせいで、ちょっと茶色い。緑がくすんでいます。作物は肥料よりも水が大事なんです。
場所を移動して違う畑へ。今度は、山あいにひっそりとある静かな畑です。
斉藤
ここは茶畑の横に竹林があって、みかんの木も奥にあるから、日本らしい風景の茶畑だと思っているんです。ここには娘の祐子の紅茶専用の茶の木があります。
斉藤祐子さん(以下「祐子」)
最初は家業を継ごうとは思ってもいませんでしたが、昨年(2022年1月)から一緒にやっています。小さい頃は、親が農家っていうのが恥ずかしくて。父は休みなく働いているし、学校の友だちが「夏休みにどこそこに旅行に行った」なんて話を羨ましく聞いていました。だから、ずっと父の近くにいたのに、全然お茶の勉強をしてこなかったんです。でも、気がついたら親も年をとってきて「このヤマ(茶畑)をどうするんだろう」と考えた時、「私がやるしかない」と。携わってみて初めて、父のデカさに気づいているところです(笑)。
お茶の機械って大きくて、吸い込まれそうで怖いのですが、紅茶の機械は小さくて怖くない。丁寧にお茶の勉強をするには紅茶がいいな、と思っていたら、丸子紅茶の村松二六さんが発酵機をくださって、父が外側を作ってお家のようにしてくれて、私の茶工場が出来ました。
揉捻(じゅうねん)も二六さんが「銅板がいいよ」とおっしゃっているので、銅板で。
頼もしいですね。
斉藤
祐子は、祐子がやりたいようにお茶をやればいいと思っています。
茶器は茶に合わせたオーダーメイド
斉藤
お茶を淹れますのでどうぞ。この茶器は、私が常滑に行って、今年のお茶をイメージして作ってもらったものなんです。毎年作ります。
毎年、茶器を、ですか?
斉藤
はい。お茶の時期が終わり、ちょっと落ち着いた秋に、窯元さんのところへ行きます。今年のお茶のイメージを伝えて、焼き上がるのが冬頃かな。お茶は、なるべく水色が出ないように、お茶の細胞を壊さないように心がけて作っています。これは私が作った「N-15」という品種です。
祐子
<ふじのくに山のお茶100選「100銘茶」>に選出していただきました。父はあまり品評会などに出品することを好まないのですが、私はせっかくいいものを作ったら知ってもらいたいと思っています。
すっきりとした味わいのお茶ですね。「山のお茶」に選ばれたのが納得の色と味です。
斉藤
ミネラル分の多い、爽やかな味です。
お庭でシイタケを干しているんですね!?
斉藤文江さん(以下「文江」)
はい、うちは原木シイタケもやってるんです。でも、猿がシイタケの軸が好きで……。山に見回りに行くと、ちょうど食べごろのシイタケのカサを捨てて、軸だけ食べたのが散らかっていてガッカリ、なんてこともあります。
斉藤
畑だけに飽き足らず、お茶をもっと知りたくて茶道を習ったこともありましたし、お茶を飲む茶器も、茶の味を引き出すものがいいので、窯元まで相談に行きます。自分で作ったお茶をこうして飲めるのは幸せだと毎年思います。
斉藤さんのお茶を粉末にした、ラスクもあります。もちろん、オーガニック茶葉です。
取材・文/朝比奈 綾 撮影/近藤ゆきえ
山の清涼な空気を有機のお茶に込めて
40年前から有機農業に徹している斉藤茶園。イチオシポイントは、茶の樹勢が強くなるように育て、ミネラル分たっぷりのオーガニックのお茶を購入できること。旅行にもほとんど行かず、毎日畑に行って熱心にお茶の生育に携わる斉藤さん。彼が「日記」と呼ぶ記録は、肥培管理や摘採の時期まで綴られ、品質の向上に一役買っています。昨年、「目下、猛勉強中(笑)」と話す娘の祐子さんが家業に入り、紅茶が斉藤茶園のラインナップに加わったことも、魅力の一つ。親子が作り出す一服のお茶から、ニホンミツバチが飛び、畝の間に野草が生える、自然な茶畑の空気を受け取ってください。
40年前から有機農法に徹している斉藤茶園。環境を守りながら、栄養価の高いお茶を研究し栽培しています。親子が作り出す一服のお茶から、ニホンミツバチが飛び、畝の間に野草が生える、自然な茶畑の空気を受け取ってください。
斉藤茶園
静岡県静岡市葵区西又2030
054-278-8895
<ふじのくに山のお茶100選「100銘茶」>に選出